発達障害者ふくの徒然草

発達障害者であるふくの個人的な障害特性に伴う困り感やそれに対してどうアプローチして緩和させているかを徒然なるままに書き留めています。

【「生産性」という社会の刃】全ての自閉スペクトラム症者が天才ではない。

この記事は2020年1月8日に作成しました。

2800字程度です。

 

 

おはようございます。

 

自称発達障害広報係のふくです。

 

穏健派(自称)なので、発達障害を好意的にメディアで取り上げてもらえるだけでうれしいです。

 

『世界仰天ニュース』は丁寧に取り上げてくださるので、感謝しています。

 

ですが、どんないい番組が製作されても受け手である視聴者の方々によっては、私たち当事者を追いつめる凶器になりえますね。

 

 

 

 

自閉スペクトラム症のピアニストさん

 

2020年1月7日放送の『世界仰天ニュース4時間SP』で、自閉スペクトラム症でピアニストの紀平凱成(きひらかいる)さんが紹介されていました。

 

今回で2度目のようですが、1度目を拝見しておらず非常に残念に思います。

発達障害広報係なのに…

 

『世界仰天ニュース』では、過去に学習障害の方や、自閉スペクトラム症の方、ADHDの方を紹介してくださっています。

発達障害ではありませんが、統合失調症の特集も拝見したことがあります。

 

 

24時間TVでは扱っていただけないので、とてもありがたいです。

 

 

視聴者の皆さんに当事者ふくからのお願い

 

『世界仰天ニュース』等のメディアで、発達障害を好意的に扱っていただけることは大変うれしいのですが、当事者としてはいくつか不安もあります。

 

 

大切なのは本人の意思

 

昨日紹介されていた紀平凱成さんは、前回放送時には聴覚過敏にとても悩まされていたようです。

 

わたしも紀平凱成さんほど重度ではありませんが、聴覚過敏があるのでとても共感しました。

 

その紀平凱成さんが、独自の方法で聴覚過敏を克服しようとされているとのことでした。

 

苦手な音をパソコンで流すことで耳を慣れさせていこうとご自身で考えられたようです。

 

理由は「大阪に行きたいから」だそうです。

コンサートなどでいろんな場所に行くために、新幹線に乗れるようになりたいということでしょうか。

 

素晴らしいと思いました。

 

と同時に…

 

この放送を見た一部の視聴者さんが、発達障害当事者さんの意向を無視して、紀平凱成さんと同じように克服することを当事者さんに強要するのではないかと懸念してしました。

 

ごく一部の心ない方は、アレルギーを持つ方に、アレルゲンに慣れさせればアレルギーも治ると考え、自分のさじ加減でアレルゲンを料理に使ってしまうそうです。

 

 

たしかに、慣れることによって改善することもあるのかもしれません。

 

ですが、本人が克服したいと思っているかどうかという発想や素人判断による危険性への懸念が抜けてしまっているのはいかがなものでしょうか?

 

本人の意思を共有しつつ、医師などの専門家の助言もとでされるのがよいと思います。

 

また、本人の意思で本人が克服しようとしている場合は、体調を崩した場合、すぐに中止することもできます。

もし発達障害当事者さんが無理やり克服しようとし、著しい体調不良に陥っていたら、周りの方には本人の意思を尊重しつつ、止めてほしいとも個人的には思います。

 

ところが、本人主導でない苦手分野の克服は、ときに危険を伴います。

 

聴覚過敏をもつわたしの場合、生活に支障をきたすこともあるでしょうし、その場でパニックを起こして泣き続けてしまうかもしれません。

頭痛や吐き気を感じてしまう当事者さんもいらっしゃいます。

 

この番組を見て、当事者さんに無理強いすることだけはお控えください。

 

 

「障害があってもがんばっている」と優生思想は地続き?

 

また、『世界仰天ニュース』は比較的バランスよく特集をしてくださっている印象がありますが、主要な民間放送を俯瞰的に見てみると、やはり何かしらの才能に恵まれた障害者や、並々ならぬ努力をし続ける障害者にスポットが当たりやすい印象があります。

 

また、SNSなどで人々の感想を見ると、賞賛の声がよく聞こえます。

 

ここまでは本当に誰も悪くありません。

 

ですが、こういう多くの方々の感想や見解などが、世の中の空気や風潮を作っていき、先ほどのように、当事者の意思やペースを無視して、がんばることを強いる方々が出てこないか心配になります。

 

昨日の『世界仰天ニュース』では、2018年の成人式に多くの新成人の方々を裏切るかたちとなってしまった「はれのひ事件」についても特集されていました。

 

当時のニュースでは批判ばかりが目立ちましたが、ブラックな社長のもと、自腹を切ってても新成人を送り出したいと奮闘された店長さんが紹介されました。

 

すごいです。

素晴らしいですよね。

とても責任感があります。

 

ですが、ブラック社長と給料未払いに耐えかねて辞めてしまった社員さんたちは責任感がないのでしょうか?

 

 

いえ、そんなことはないはずです。

 

 

人のために自腹を切ることが賞賛される風潮にのまれて、ブラック企業のもとで自腹を切る人が大量に発生してしまったら、ブラック社長は野放しになるかもしれません。

先ほどの店長さんを批判しているわけではありません。

この方には幸せになってほしいと心から思っています。

 

 

がんばる障害者を絶賛することにも、これと似たような危険性があると思います。

 

たしかに苦手なことを克服しようと奮闘する障害者の方々は素晴らしいです。

わたしも「できない」ばかり言わずに、できることを伸ばしつつ、できないことを少しずつできるように日々努力したいと考えています。

 

 

ですが、それを他者に強要されるのはとても怖いです。

 

 

発達障害者ふくの個人的な意見ですが、能力の有無と自分の命がつながっているような恐ろしささえを感じます。

 

 

事務作業がスムーズにできずに心臓がバクバクしてしまうのは努力と根性の問題なのか。

合理的配慮をお願いすることは甘えなのか。

仕事ができないと足手まといだから、働かないほうがいいのか。

障害者年金や生活保護を受給することはせこいのか。

 

ならいっそうのこと…

 

生きていないほうがいいのか。

 

 

そんな大げさな…

読んでくださっている方々は、思わずつっこみたくなるのかもしれません。

 

 

ですが、実際に、優生思想の考えに基づいて、ナチスドイツ政権下ではたくさんの障害者が殺害されてしまいました。

また、1996年以前の日本では、現在の母体保護法が旧優生保護法の優生思想の考えを引き継ぐようにして、障害者の断種手術(強制不妊手術)が合法とされていました。

 

 

「生産性」や「効率」など、経済発展が優先される社会では、障害者をはじめとするマイノリティは、生きていてもいいんだという安心感を失ってしまうときがあるのです。

 

 

読者さまには喜怒哀楽さまざまな感情を煽るような社会にのまれてほしくないなと思います。 

 

多くの人々が考えることよりも先に感情のままに選択した何気ない言動が、社会の空気をつくり、社会的マイノリティを追いつめるのではないかと、わたしは危惧しています。

 

 

 

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